汽水域のひろば

公益社団法人 日本水環境学会 汽水域研究委員会

写真

活動報告

第26回日本水環境学会シンポジウムセッション「水圏を巡るホットな話題と汽水域」を開催しました(2023年9月21日)

今回はようやく対面のみの開催となり、7件の講演が行われました。

「阿蘇海流域における水環境の現状と今後」では、年3回行われた水質の平面分布、及び各地点での鉛直分布が紹介されました。一部会員は巡検で現地を見ていたので、印象深かったと思います。

「堆積物中のマイクロプラスチック分別を目的とした基礎実験」では、比重差を利用して浮上したマイクロプラスチックを目視等によって分別する従来法では手間がかかることで研究が進んでいないとして、遠心力を用いた比重分離法によってマイクロプラスチックを分取する試みが紹介されました。沿岸域だけでなく河川や農地のマイクロプラスチック汚染まで範囲が広がる中、画期的な技術革新だと思います。

「機械学習を用いた低空航空写真からの干潟環境分類についての研究」ではUAV(いわゆるドローン)による低空航空写真を用いて、干潟の物理環境を面的に評価する手法が紹介されました。UAVが撮影した画像からオルソ画像を作成し、粒度分析を行った地点や画像から堆積環境を識別できる部分を教師画像としました。機械学習としてGoogleNet 畳み込みニューラルネットワークを転移学習し、既存ネットワークの出力層のみの重みを教師画像に対して再学習し分類を行ったところ、概ね現場の底質環境を反映した分類結果がえられたそうです。

「過去3回行った斐伊川負荷量調査から考える今後必要な調査・解析方法の提言」では1983年7月1日~1984年6月30日、2001年9月1日~2002年8月31、2010年7月1日~2011年6月30日の3回、斐伊川流入河川で毎日採水した水質と流量から求められた負荷量が紹介されました。比流量と比負荷量との回帰式を求めたところ、洪水などにより比流量が大きい時の比負荷量が回帰式より大きく高めの値でした。回帰式では測定数が多い平常時の影響が大きくなるためで、より正確な回帰式を求めるために、梅雨末期や台風通過時のような多量の降水を伴うと考えられる時期に、1時間に1回程度採水を行う集中的な調査を行うことが提案されました。

「ペルオキソ二硫酸カリウム分解法を用いる河川水中懸濁態リンの定量」では、試料に砂などの無機鉱物が多く含まれる場合、従来法では無機リン化合物の一部を溶解できず、結果が過小評価になると紹介されました。また、従来法の改良法が紹介され、懸濁態リンの濃度が従来法の2倍程度高い結果が得られたものもありました。測りたいものが正しく測れているか、それぞれの分析手法を見直す必要性があるとの指摘がありました。

「斐伊川におけるメタンの挙動」では、メタンの化学的特性を利用してその発生源を特定する過程の紹介がありました。斐伊川の河川水中からほぼ一年を通してメタンが検出され、さらには河川の左岸部、中央部、右岸部を比較した結果、右岸側のメタン濃度が高かったそうです。斐伊川の地形をみると右岸側に「鯰の尾」と呼ばれる伏流水を集めるための工法が施されていることがわかり、メタンの由来は伏流水ではないかと紹介されました。

「テドラーバッグを用いるメタン生成の最適条件の検討」では、汽水・海水域において、硫酸還元とメタン生成が同時に起こる要因について紹介がありました。発表では、メタン生成に及ぼす基質(酢酸)濃度の影響、メタン生成に及ぼす最適pHに関する実験結果が紹介されました。さらに、これらの実験結果を用いて硫酸イオンがメタン生成菌に及ぼす影響の結果が紹介されました。室内実験の結果と中海の湖底堆積物の状況を考え合わせると、硫化水素の生成に伴い硫酸イオン濃度がある一定濃度まで低下したこと、さらには硫酸イオン濃度の低下に伴いメタン生成菌に対する阻害が弱まったため、硫化水素とメタン生成が同時に起こったとの考察でした。

今回はまさに「ホット」な話題が紹介されたことから各講演内で全ての質問に対応できなかった為、総合討論は各講演への残りの質問と回答に終始しました。会場には常時20名以上が参加し、汽水域研究委員会以外の会員からも質問が相次ぎ、関心の高さがうかがわれました。また今回は登壇者のうち4名が学生で、汽水域に関心をもつ若手相の広がりが感じられました。

inserted by FC2 system