汽水域のひろば

公益社団法人 日本水環境学会 汽水域研究委員会

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活動報告

第24回日本水環境学会シンポジウムセッション「陸から海へ:淡水・汽水・海水域の独自性と共通性」を開催しました(2021年9月14日) 

2021年9月14日午前にオンラインでセッションを開催しました。

初めに中村由行氏(横浜国立大学)に、標題と同じタイトルで特別講演を行っていただきました。塩分・滞留性の2軸で淡水から海水域を比較した図が提示され、淡水湖はリンの除去機能を持つのに対し汽水湖では成層によってリンの供給源となることや、硫化水素の発生などに関わる鉄の挙動を水質項目としてモニターする必要性が解説されました。また各水域に共通して出水時の溶存・懸濁物質の量が把握されておらず、水質のモデル化のネックになっていることが指摘されました。

続いて一般講演7件が発表されました。

管原庄吾氏(島根大学)は「ヤマトシジミの斃死要因について~ヤマトシジミの貧酸素・硫化水素耐性実験の結果から~」を発表しました。貧酸素状態で飼育したヤマトシジミ軟体部からはアンモニアや硫化水素が検出されたことから、貧酸素環境でのヤマトシジミの死亡は酸素欠乏だけでなく、アンモニアや硫化水素による悪影響も考慮する必要が指摘されました。

Zanne Sandriati PUTRI氏(東京大学、山室代読)は、「インドネシア・インドラマユ行政区の汽水中のネオニコチノイド濃度」を発表しました。インドネシアの水田地帯の汽水域で採水した試料から淡水でのネオニコチノイド濃度を推定したところ、西日本で報告されている濃度より低かったそうです。

片桐知咲氏(島根大学)は「汽水湖中海・宍道湖におけるメタンの挙動」を発表しました。宍道湖の水草が打ち上げられた湖岸では、宍道湖や中海の貧酸素化している湖心よりもメタンの放出速度が大きく、地球温暖化の観点からも水草類繁茂抑止対策が必要と指摘しました。

神門利之氏(島根県保健環境科学研究所)は「2010 年代の空中写真を用いた宍道湖における水草群落分布範囲の評価」を発表しました。2011~2013年は主に南東部に繁茂していたのが、2014~2015年には北岸にも分布するようになり、南岸でも西側に範囲が広がりました。2018年に分布範囲は最大に達し、翌2019年には前年よりも縮小しました。UAVによる調査は透明度が1mあれば可能ですが、反射などの関係で1日に撮影できる時間帯が限られ全体で1週間かかる事、画像処理にも長時間を要する事などが短所と説明されました。

伊豫岡宏樹氏(福岡大学)は「干潟は動く!? ~ドローンを使った干潟モニタリング~」を発表しました。球磨川河口域の干潟を対象にドローンによる航空写真撮影を行い、 SfM-MVS(Structure from Motion- Multi View Stereo)処理によって作成された地形モデルを用いて干潟地形の変化を調べ、この方法で精度3cm程度で地形測量ができ、数年での差分などが簡単に表示できる事などが紹介されました。

中村聖美氏(横浜国立大学)は「宍道湖・中海水系における塩分変動に関連した水質応答解析」と題して、非静水圧三次元モデルを用いた宍道湖・中海の流動・水質シミュレーション結果を紹介しました。従来、鉛直方向における速度の時間的・空間的変化が水平方向と比較し十分小さいことを前提とする静水圧近似モデルが用いられてきたのですが、宍道湖では比較的塩分濃度の高い塩水が中海から侵入し密度流が発生することから、静水圧近似では正確に近似できない可能性がありました。非静水圧モデルを採用することにより、宍道湖での長期の塩分成層の形成や成層形成により引き起こされる宍道湖底層の無酸素化を再現できたそうです。

井上徹教氏(港湾空港技術研究所)は「大橋川における塩水侵入再現に向けた数値シミュレーション」で、宍道湖と中海を結ぶ大橋川を対象に、地形データを50mと200mの2通りのメッシュサイズで検討した結果を紹介しました。いずれの計算でも水温・塩分の再現性は概ね良好だったのに対し、流量はほとんどのケースで過小評価となり、その原因に関する考察が紹介されました。

総合討論では片桐氏や神門氏が発表した宍道湖における水草の異常繁茂に関連して、「亜熱帯のダムで水草があるところでは37℃になっていた。」「今後、亜熱帯化する汽水域という視点も重要。」との指摘をいただきました。熱帯・亜熱帯の汽水性動物は温帯~寒帯とは異なる生理現象が報告されており、温暖化が汽水域に与える影響は当委員会でも将来的に検討すべき課題と考えられます。

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