汽水域のひろば

公益社団法人 日本水環境学会 汽水域研究委員会

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活動報告

第23回日本水環境学会シンポジウムセッション「汽水域の生物生産~物理・化学的基盤と生態系」を開催しました(2020年9月9日)

オンライン開催となった今回は、2020年9月9日午前にセッションを開催し5つの講演が行われました。

神門利之氏(島根県保健環境科学研究所)からは「2010年代の空中写真を用いた宍道湖における水草群落分布範囲の変遷」との演題で講演いただきました。汽水湖である宍道湖(島根県)では、沈水植物の異常繁茂が問題になっています。2011年以降2015年までは他研究によって得られた空中写真、2018年以降は演者らがUAVによって撮影した空中写真を使って繁茂域の変化を検討した結果、2018年までは繁茂範囲は拡大傾向にありました。しかし2019年は減少に転じたそうです。

小室隆氏(港湾空港技術研究所)からは、「2019年夏季の宍道湖における水草群落内のDO観測」を講演いただきました。宍道湖の沈水植物群落内において2019年7月から11月まで水質の連続観測を行ったところ、夏季の夜間には底層で溶存酸素濃度が2 mg/Lを下回る日がありました。また画像解析によって沈水植物群落ではシオグサ類が水草の表面に付着して水面まで伸びていて、これによる水質悪化も懸念されると指摘されました。

管原庄吾氏(島根大学)からは「宍道湖湖岸におけるメタン生成について」を講演いただきました。。二酸化炭素の約20倍の温室効果をもつメタンを指標として、シオグサ類・水草類が腐敗する際に,どの程度水質悪化が進行するのか検討されました。予備調査によりシオグサ類や水草類が特に打ち上がりやすい場所を含む全25地点を選定し、2020年2月と2019年8月でメタン濃度を比較したところ、物の湖岸への打ち上げがない2月にはメタンは1カ所だけで数10 μL/L検出されただけでしたが、シオグサ類・水草類が多量に打ち上がっていた8月のメタン濃度は約900 μL/Lもあったことから、メタン生成に及ぼすシオグサ類・水草類の腐敗の影響が大きいことが確認されたそうです。

伊豫岡宏樹氏(福岡大学)からは「室見川汽水域の河道形状の変化とシロウオ産卵場への影響」を講演いただきました。シロウオの産卵場は汽水域上流部の低塩分域で、福岡県の室見川の主な産卵域である室見橋から潮止堰にあたる新道堰では産卵に適した礫が砂に埋没しています。その原因を解明するために、シロウオの漁獲量が大幅に減少し始めた1970年代前後の河道形状の変化に着目し、数値計算により掃流力の変化について検討を行いました。1960年代以前は河道湾曲部の外側である左岸側に連続的に沿って20N/m2を超える掃流力が生じ、横断方向に比較的高い掃流力がみられましたが、現況の河道条件では高い掃流力が得られているのは堰直下および室見新橋の橋脚付近のみでした。このことから河道形状の変化が礫埋没の原因であると推定されました。

山室真澄氏(東京大学)からは「汽水域の甲殻類に与えるネオニコチノイド系殺虫剤の影響」を講演いただきました。宍道湖では1993年以降ネオニコチノイド系殺虫剤により甲殻類が減少し、補食者のワカサギの漁獲量も激減した一方で、淡水の霞ヶ浦(茨城県)はテナガエビ漁獲量が日本最大で、ワカサギも漁獲されていました。この原因として汽水域では浸透圧調節によりネオニコチノイドの影響が増加するとの仮説を立ててスジエビを用いてネオニコチノイド曝露実験を行いましたが、汽水と淡水とで有意差は得られませんでした。一方で霞ヶ浦の年間を通じたネオニコチノイド濃度は宍道湖よりはるかに低く、原因は汽水と淡水ではなく、湖水のネオニコチノイド濃度である可能性があるとのことでした。

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