汽水域のひろば

公益社団法人 日本水環境学会 汽水域研究委員会

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活動報告

第22回日本水環境学会シンポジウムセッション「塩分が変化し成層しやすい汽水域をどうするか~課題と展望」を開催しました(2019年9月5日)

昨年は時間が全く足りなかったことから、今回は午前・午後を通じてセッションを行いました。

はじめに三上英敏氏(北海道・環科研セ)による招待講演「北海道の汽水湖」において、北海道の汽水湖の全体的な水質傾向と網走湖の長期的環境変化を紹介いただきました。北海道にはオホーツク沿岸と太平洋岸東部に多数の汽水湖があります。そのうち部分循環湖である網走湖では高塩分層は常に嫌気的で、硫化水素・アンモニア・リン濃度全てが近年、増加傾向にあります。好気層では二枚貝ヤマトシジミが漁獲され、その繁殖の為にはアオコが発生しない程度に高塩分水が流入するのが望ましいのですが、そうなると高塩分層の嫌気化が強くなるというジレンマの中で、適切な管理が求められていることが説明されました。

続いて汽水域の物理・化学的特性に関して6件の講演が行われ、うち塩分成層に関する講演が3件ありました。塩分成層が汽水域では重要な課題であることを反映していると思われます。塩分成層すると、海水には硫酸イオンが豊富にあることから、硫化水素が発生します。硫化水素は人間も死ぬほど毒性が強い物質ですが、現場での値はあまり報告されません。その原因のひとつに精度管理があるのですが、これについて、特に標準溶液の調製法に留意すべきことが紹介されました。

午後のセッションでは、汽水域の生物に関わる報告が4件行われ、網走湖で問題になっている植物プランクトンやアマモなどの大型植物、さらにはヤマトシジミに関する話題もありました。

総合討論では、長期的な塩水侵入予測は難しいとしても、メソ数値予報モデルGPV(MSM)の数日程度の予報値を用いれば、気象予報データと天文潮水位データを用いて3日間程度の短いスケールの塩水侵入を予測できる可能性があるとの意見が出されました。それが可能になれば、貧酸素化や青潮などで被害を受ける漁業者に対して、有益な情報を提供できると思われます。また硫化水素測定に関わる標準物質について、演者の開発した方法が商品化して広く普及すれば、海域での青潮などの影響調査にも応用が期待されます。

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